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オオムラサキ
オムラサキは国蝶に指定されています。食草のエノキの木に生涯を依存して生活し、幼虫はエノキの葉の色に応じて体色を変えます。かつて八王子のどこにでも居たオオムラサキは激減して、私たちの調査では、まとまった生息地は少なくなっています。天合峰山中にも僅かに見られます。最近になってやや増加傾向に転じています。2008年、2009年はこの傾向が一層顕著になってきました。とても嬉しいことだと思います。
鱗翅目タテハチョウ科 和名 大紫 学名 Sasakia charonda 撮影地 八王子市川口町

川口の自然を守る会  最終更新 2013-11-30
最新の情報
2010年の12月から2011年の1月に掛けて行った越冬幼虫調査では過去最大となりました。オオムラサキは完全に復活したと言えそうです。
オオムラサキの一生
@盛夏の頃に孵化したオオムラサキの幼虫はエノキの葉と同じ緑色をしていますが,秋が深まり、落葉の時期を迎えると体色を落ち葉の色に似せて茶色に変えます。糸を吐いて葉柄と枝を結び付け、木枯らしに飛ばないようにしています。
Aエノキの葉が散ると、幹を伝わって根方に下り、落ち葉の裏に身体を張りつけて越冬します
時期は11月末から12月初旬です。根元に積もったエノキの葉を利用しますが、地形などの関係でエノキの葉が根元に無い場合は、他の葉(この場合はコナラ)を利用します。
B春になると再び木に登って行きます。八王子周辺では4月10日頃になります。
C木の股に張り付いて葉の成長を待ちます。
D脱皮して体色を葉の色に合わせて緑に替える。脱皮の時期は八王子付近では4月末から5月初めに掛けてです。
E葉を食べて成長します。写真にはありませんがもう一回脱皮します。
F更に大きくなって、体長は6cm位になります。ここまで成長すると蛹化寸前です。
G蛹になるのは6月の初旬頃です。
H7月になると羽化します。羽化後は樹液を吸って飛び回り繁殖活動をします。エノキの葉や先端の枝に産卵します。産卵後、晩夏の頃まで生き延び、一生を終わります。
I成虫は樹液を吸って生き延びますが、好む木はコナラやクヌギです。樹液はカミキリの幼虫が穿けた穴からにじみ出ますが、カナブンやスズメバチなどが穴を広げ、オオムラサキは分泌してくる樹液のおすそ分けにあずかります。しかしカナブンやスズメバチと鉢合わせすると、羽を広げて威嚇します。その瞬間が成虫を撮影すときのシャッターチャンスです。オオムラサキが生きていくためには、カミキリ、カナブン、スズメバチなどの昆虫が共生していなければなりません
@ A
B C
D E
F↑ G↑
H↑ I↑
2010年、2011年の越冬幼虫調査
2010年の越冬幼虫調査を1月11日に行った。川口ビオトープに自生する2本のエノキの中木について根元を調べた。その結果、合わせて31匹のオオムラサキ幼虫と5匹のアカボシゴマダラ幼虫、1匹のゴマダラチョウ幼虫を確認した。ほんの一部の調査に過ぎないが、大体今年の傾向を表していると思われるので参考までに掲載します。2011年は2本の他に、地域全体を調べオオムラサキ578、ゴマダラ140、アカボシ37、合計755を確認した。
←調査したエノキの指標木(A)
木の太さ:地上30センチでの幹周り:27センチ(直径約9センチ)
木の高さ:約4メートル
根元の地質:礫層(加住礫層)
地勢:平坦地、休耕田の小下がり
周辺の植生:ウワミズザクラ(大木)ヒイラギ(小木)、カマツカ(小木)、リュウノヒゲ、ヤブラン
その他:
風で幼虫のいる落ち葉が飛ばされないように周囲を丸太で囲む。丸太の太さ:直径10センチ
約70センチ四方を囲う。
木は西側に向かって曲がっているので、エノキの葉は根元にほとんどない。ウワミズザクラの葉が主体である。
←調査したエノキの指標木(B)
二本並んでいる木の右側
沢の崖の上に立つ。
木の太さ:幹周り30センチ(直径10センチ)
木の高さ:約5メートル
根元の地層:礫層
地勢:崖上、根元に平坦地なし
周辺の植生:クリ、(大木)、コナラ(多数)、イヌザクラ、シダ類
指標木の内、最も条件が悪い。コナラの葉が根元に多く溜まっている。エノキの葉も僅かに見られれる。左に途中から切られた木が見えるが、イヌザクラで樹勢盛んで、エノキが枯れる心配があるので昨年切り倒した。人の常識では条件が悪いように思われるが、オオムラサキは好んで産卵する。

→オオムラサキ幼虫
指標木Aの根元にはエノキの葉がないので、幼虫はウワミズザクラの葉を利用している。しかし、ウワミズザクラの葉は薄くて、乾燥すると丸まってしまう。それを伸ばして撮影したものである。2匹のオオムラサキが張り付いて越冬している。ここでは遠くから飛んできたアカシデの葉を利用しているケースも見られた。
状況によってエノキの葉が根元に溜まらない事を心配する向きもあるが、その心配はない。何でも身を守るものがあれば利用するという逞しさを持っている。これが自然の中で何万年も生きながらえてきた秘密なのかもしれない。
←ゴマダラチョウとの共生
左側に見えるズングリした幼虫は背中に突起が三つしかない。これはオオムラサキと共生してきたゴマダラチョウの幼虫である。成虫はオオムラサキより小さいのに越冬段階での幼虫は大きい。これはゴマダラチョウが年に2回発生するため成長が早いからである。都市化に適応した種とされ、都市型公園などでも姿を見せるが、川口地区では近年減少傾向にあったが、2011年の調査では復活傾向が見られる。
樹上で葉を食べるとき、ゴマダラチョウは比較的低い枝の葉を食べる他、若木や幼木を利用するケースが多く見られる。比較的高い所の枝を利用するオオムラサキとの間にある程度の棲み分けが出来ているのかもしれない。
←アカボシゴマダラとの共生
近年急速に増加しているのがアカボシゴマダラである。下のやや青みがかった幼虫がアカボシである。年に数回発生し、繁殖力が旺盛である。本来は大陸系の種で、日本では奄美諸島にしかいないと考えられていた。今関東地方で急速に増加しているが、放蝶によるものとの説がある。
幼木を多く利用するとの説があるが、そうとは限らない。またエノキの根元でなく幹や枝の股で越冬するという説もあるが、これは稀である。根元に降りる前、木の股や幹にしばらく留まることがあるほか、稀に幹に張り付いたまま越冬するケースもある。今回発見された幼虫の中に2齢の小さいものが含まれていた。成長段階に関わらず、寒くなれば根元に下りてくるらしい。ゴマダラチョウ以上に都市化にも自然界にも高度に対応した種で今後が注目される。都市部のみならず、深い山中にも広く進出している。
オオムラサキ ゴマダラ アカボシ 合計
2010 2011 2010 2011 2010 2011 2010 2011
指標木A   4  45   0   0   1   3   5   48
指標木B  27  33   1   1   5   5  32   39
指標木合計  31  78   1   1   6   8  38   87

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